「サルの恩返し」

むかしむかし、九州のお大名の家来に、勘助(かんすけ)という男がいました。
勘助の仕事は飛脚(ひきゃく)で、手紙をかついで届ける事です。
その頃の大名たちは珍しい刀や名刀が手に入ると、これを江戸まで飛脚に運ばせたのです。
そして勘助も将軍さまに献上(けんじょう)する大切な刀をかかえて、東海道(とうかいどう)を江戸に向かっている途中でした。

さて、勘助が薩摩峠(さつまとうげ)という大きな峠を走っていると、小高い崖の上でサルのむれがキーキーと鳴き騒いでいるのに出会いました。
「何事だ?」
勘助は、海辺の方を見てびっくり。
何と驚いた事に化け物の様な大ダコが、一匹のサルを海へ連れ去ろうとしているのです。
「よし、助けてやるぞ!」
勘助は腰に差していた刀をサッと抜いて、
「えいっ、えいっ、えいっ!」
と、大ダコめがけてきりつけました。
ところがこの大ダコの体がとても固くて、刀はあっという間にボロボロになってしまいました。
「これは、とんでもない化け物だ!」
勘助は逃げだそうと思いましたが、そのとき勘助は、将軍さまへ届ける刀の事を思い出しました。
「そうだ。将軍さまに差し上げる刀なら、あの化け物ダコをやっつけられるかもしれん。将軍さま、ちょっとお借りします」
サルはもう、大ダコと一緒に海の中に引きずり込まれています。
勘助は素早く裸になると、将軍さまの刀を口にくわえて海に飛び込みました。
そしてサルを助け出すと、大ダコの体に将軍さまの刀を振り下ろしました。
「えいっ!」
ところが将軍さまの刀は、大ダコの体に当たったとたん、ポキリと折れてしまったのです。
「大変だ! 将軍さまに差し上げる刀を折ってしまった!」
勘助はサルを助けて海からあがって来たものの、あまりの事にその場へヘナヘナと座り込んでしまいました。
その時、仲間を助けてもらったお礼なのか、サルたちかやって来て勘助に一本の刀を差し出しました。
「なんじゃ? 刀か? これをくれると言うのか?」
勘助は、その刀を抜いてみてびっくりです。
「おおっ! これは何と素晴らしい刀じゃ。さっきの刀とは比べものにならんぞ! これなら将軍さまも、喜んでくださるに違いない」
素晴らしい刀を手入れた勘助が、さっそく出かけようとすると、サルたちが道をふさいで海の方を指差します。
勘助が海を見ると、あの化け物ダコが再びサルたちを捕まえようとやって来ていたのです。 「わかった、わかった。あの化け物ダコを退治しろと言うのだな」
こうして勘助は、サルの刀で再び化け物ダコにきりかかりました。
「てや! とう! おおっ、これはすごい切れあじ。これなら勝てるぞ!」
サルの刀は化け物ダコの固い体をスパスパと切り裂き、あっという間に化け物ダコを退治したのです。

後から調べたところ、勘助がサルからもらった刀は刀作りの名人の五郎正宗(ごろうまさむね)の名刀だったそうです。
将軍さまはこの刀を『猿正』と名付けて、いつまでも家宝として大切にしたということです。

おしまい


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