日本の昔話「ふぐ汁」

ふぐには毒(どく)があるため、むかしは、ふぐを食べて死んだ者が、おおぜいおりました。
そのくせ、ふぐの味は、格別(かくべつ→とくべつ)です。
何とかしてたベてみたいと、いろいろ苦心(くしん→苦労すること)をしたものでございます。
ある日、若い江戸っ子連中が、両国橋(りょうごくばし)の近くの家に集まって、ワイワイやっておりました。
そこヘ、ひとりの男がやってきて、
「いよう。みんなそろって、なにをさわいでいるんだい」
「やあ、源兄(げんにい)か。実は、ふぐをもらったんだが。どうもきみが悪くて食えねえ。だれかが、先に食ってみせろというんだが、だれも食い手がねえんだ」
「おお、そんなことなら、橋の上のこじき(→詳細)に、食わせてみたらどうだ」
「なーるほど。そいつは、うまい考えだ」
と、いうわけで、さっそく、大なベにいっぱい、ふぐ汁をこしらえました。
「源兄。いってくれるか」
「よし、きた。そのどんぶりばちに、入れてくれ」
源さん、ふぐ汁をもって、橋の上にやってきました。
ねていたこじきをゆすぶりおこして、
「ふぐ汁のできたてをもってきたが、食わねえか。どうだ」
「おありがとうございます」
「食うか」
「へえ。おありがとうございます」
源さん、こじきの出したおわんの中ヘ、ふぐ汁を入れてやると、ニヤニヤしながら、帰ってきました。
しばらくたちました。
もう、そろそろ、よかろうと、見にいきますと、こじきは、元気でピンピンしております。
「これなら、だいじょうぶ。さあ、ふぐをたべよう」
一同は安心して、ふぐ汁大会をはじめました。
いや、にぎやかなこと、にぎやかなこと。
なにしろ、若い連中(れんちゅう)のこと。
よってたかって、大なベいっぱいのふぐ汁を、きれいに、たいらげてしまいました。
「ああ、うまかった」
「どうだい。腹がふくれたから、表を少し歩こうじゃないか」
「いいねえ、いこうか」
と、みんなは、橋のほうヘやってきました。
こじきのそばまでくると、わざと大声で、
「さっきのふぐは、うまかったなあ」
「おお。ふぐは、やっぱり、かくベつの味だ」
などと、きこえよがしに、話しあいました。
こじきは、若いしゅうの中に源さんのすがたを見つけると、顔をあげてたずねました。
「だんながた、もう、ふぐ汁を、おあがりになりましたんで?」
「おお、食ったとも、食ったとも」
「お味は?」
「いやはや、もう、とほうもなく、うまかったわ」
「おからだのぐあいは?」
「このとおり、ピンピンしておる」
それをきくと、こじき、
「それならば、わたしも、安心して、いただかしていただきます」

おしまい


コメントは受け付けていません。